(社)トロン協会では、組込みシステムにおけるリアルタイムOS利用の現状を調査し、ITRONプロジェクトの今後の進め方の参考とするために、毎年1回、組込み機器におけるリアルタイムOSの利用動向に関するアンケート調査結果を実施している。ここでは、1998年末から1999年頭にかけて実施したアンケート調査の実施概要とその結果を報告する。なお、今回のアンケート調査では、組込み機器のGUIに関する調査も同時に行ったが、その結果については別に報告することとし、ここでは触れない。
実施したアンケート調査は、組込みシステム開発の現状とリアルタイムOSの問題点や選択基準、ITRON仕様OSの利用動向とユーザによる評価、ITRONプロジェクト関連の活動に対する周知度や要望事項などを調査するものである。同様の内容のアンケート調査は1996年度から実施しており、今回が3回目の実施となる。また上述の通り、今回は組込み機器のGUIに関する調査も同時に行った。
1998年11月〜1999年1月
アンケート用紙を次の2つの方法で配布し、回答を収集した。
組込みシステムに関する展示会における配布としては、1998年11月に東京で開催されたマイコンシステム&ツールフェア'98(MST'98)のトロン協会のブースおよびセミナー会場においてアンケート用紙を配布し、可能な方についてはその場で回答をお願いした。ダイレクトメールは、前回のアンケート回答者を中心に送付した。送付先は、すべて日本国内である。
上記の方法でアンケート用紙を配布したところ、合計で678通の回答を回収することができた。この数は、前回の調査(438通)の約1.5倍、前々回の調査(287通)の約2.3倍で毎回約1.5倍の割合で増加している。
配布方法別の配布数と回答数は次の通りである。
配布数 | 回答数 | 回収率 | |
---|---|---|---|
展示会 | 811通 | 307通 | 37.9% |
ダイレクトメール | 1,365通 | 371通 | 27.1% |
展示会におけるアンケート用紙配布では、配布したその場で回答するようにお願いしたところ、前回調査(19.9%)を大きく上回る回収率が得られた。ダイレクトメイルで配布した分の回収率は、前回(24.2%)、前々回(25.0%)とほぼ同じである。その結果、展示会での回収率がダイレクトメイルによる回収率を上回る結果となった。
アンケート調査の趣旨から、リアルタイムOSの(潜在的な)ユーザである組込み機器の開発技術者を主な想定回答者としてアンケートを作成した。調査項目は次の通りである。
最近開発した最大3つの組込み機器について、アプリケーション分野、システムの規模(プロセッサ種別とプログラムサイズ)、用いたプログラミング言語、組み込んだリアルタイムOSを問う項目。
組込み機器開発にリアルタイムOSを用いる上で問題となっている点と、リアルタイムOSの選択基準について問う項目。
アンケート回答者のITRON仕様OSとの関わりと、ITRON関連の仕様や委員会・研究会活動、普及広報活動などに関する周知度を問う項目。
ITRON仕様OSを使用/開発ないしは調査/検討したことがある人に対して、ITRON仕様OSの長所と短所を問う項目。
ITRONに関連する活動として何を期待するかを問う項目。
アンケート回答者の職種を問う項目では、設計・開発・研究という回答が約90%を占めており、アンケートが想定した対象者に対して実施されたことが確認できる。
職種 | 割合 |
---|---|
設計・開発・研究 | 90.1% |
企画・管理 | 5.5% |
営業技術・営業支援 | 2.4% |
その他 | 1.9% |
アンケート調査結果を集計する際に、正しい回答と解釈できないものについては、原則として、項目毎に無効と扱った。具体的には、一つの選択のみを選ぶべき項目で、複数の選択肢を選んだ場合は、無効とした。またこの調査では、該当する選択肢を複数選べるとした項目では、最も該当するものに「1」、2番目と3番目に該当するものにそれぞれ「2」「3」を記入してもらう形を取ったが、例えば「1」が複数あるなど、これに従わない回答も無効とした。
該当する選択肢を複数選べるとした項目を集計する場合には、「1」を記した回答の回答数に対する比率(これを「単数回答」と呼ぶ)と、「1」「2」「3」のいずれかを記した回答の回答数に対する比率(これを「複数回答」と呼ぶ)を示す(よって「2」と「3」は区別していない)。「単数回答」の比率は、合計すると100%となるため、集計結果を円グラフで示した。「複数回答」については、合計すると100%を越えることになるため、集計結果を棒グラフで示した。この際に、「1」を記した回答(単数回答)と、「2」「3」を記した回答(複数回答)を区別した。
以下で回答率の計算の母数には、2.2節以外では回答者数を、2.2節では回答のあった組込み機器の数を用いている。
アンケート回答者ないしは回答者の所属する会社が最近開発した最大3つの組込み機器について、アプリケーション分野、使用したプロセッサの種別、プログラムサイズ、用いたプログラミング言語、組み込んだOSの5項目を質問した。
その結果、回答者1人あたり平均1.5の組込み機器について回答を得ることができた。ただし、5項目の内に1つでも無効の回答がある場合には、その組込み機器に関する回答全体(つまり、5項目すべて)を無効とした。項目毎に集計する場合には、項目毎に無効な回答を除外する方法もあるが、クロス集計をするためにこのような方法を採った。
以上の結果、有効となった回答の数は945件となった。以下、この節での回答率の計算はこの数を母数とする。この母数についても、前回調査(675件)の約1.4倍に増加している。
コンシューマ向けの機器(家電機器,AV機器,娯楽/教育機器,個人用情報機器,通信機器(端末))が約35%、工業用の機器(工業制御/FA機器)が約20%、残りはその他の産業用機器となっている。コンシューマ機器は、1種類の機器あたりの生産個数は多いが、設計の数(つまり機器の種類)は少ないため、日本で開発されている組込み機器の内訳としては、おおよそ妥当な調査結果と考えられる。
前回調査との比較では、運輸機器の比率が5割程度増加しているのが目立つが、大きな傾向は変わらない。
分野 | 割合 |
---|---|
家電機器 | 3.2% |
AV機器 | 8.9% |
娯楽/教育機器 | 3.2% |
個人用情報機器 | 3.7% |
パソコン周辺機器およびOA機器 | 6.7% |
通信機器(端末) | 9.4% |
通信機器(ネットワーク設備) | 8.5% |
運輸機器 | 10.1% |
工場制御/FA機器 | 19.4% |
医療機器/福祉機器 | 5.3% |
設備機器 | 3.6% |
その他の業務用機器 | 7.3% |
その他の計測機器 | 6.8% |
その他 | 4.1% |
最近開発された組込み機器では、32ビットのプロセッサが占める率が約47%と最も高く、次いで16ビット、8ビットの順となっている。組込みシステムの分野においても、32ビットプロセッサが主流となっていることがわかる。
前回調査との比較では、DSPなどの専用プロセッサが2倍程度に増えているのが目立つが、サンプルの絶対数は少ない。その他では、8ビット、16ビット、64ビットは微増で、逆に32ビットが微減となっている。
この調査では、最近開発した最大3つの組込み機器について回答をお願いしているが、リアルタイムOSに関する調査であることから、多く種類の機器を開発している場合には、(リアルタイムOSを使っているような)大規模な機器を回答対象に選ぶ傾向があると思われる。また、1つの機器に複数のプロセッサを使っている場合には主たるプロセッサについて答えることをお願いしていることからも、4ビットや8ビットのプロセッサが実際よりも少なくなっていることが予想される。
プロセッサの種別 | 割合 |
---|---|
4ビット
| 0.8%
|
8ビット
| 14.1%
|
16ビット
| 34.6%
|
32ビット
| 46.6%
|
64ビット
| 1.5%
|
DSPなどの専用プロセッサ
| 2.4%
|
プログラムサイズが64KB未満、64KB以上256KB未満、256KB以上1MB未満、1MB以上がいずれも約4分の1という前回調査と同様の結果が得られている。1MB以上をさらに3つに分けたのは今回が初めてで、その結果、16MB以上という大規模なプログラムの組込み機器も3.6%あることがわかる。このような大規模なプログラムは、工業制御/FA機器分野や通信機器(ネットワーク設備)分野のものが多い。
前回調査との比較では、64KB以上256KB未満がやや減少し、1MB以上が増加している。前々回と比較すると、1MB以上の増加率はさらに大きく、組込みソフトウェアの大規模化の傾向を裏付ける結果となっている。
プログラムサイズ | 割合 |
---|---|
64kB未満
| 25.7%
|
64kB以上256kB未満
| 21.7%
|
256kB以上1MB未満
| 25.2%
|
1MB以上4MB未満
| 17.8%
|
4MB以上16MB未満
| 6.0%
|
16MB以上
| 3.6%
|
主に用いたプログラミング言語(単数回答)では、C言語が7割弱、アセンブリ言語が2割強である。複数回答で見ると、アセンブリ言語が45%を越えており、C言語を主体にしながら、アセンブリ言語を併用するケースが多い事がわかる。
C++は複数回答で約7%と前回同様の数字に留まった。また、Javaは1%に満たず、組込み機器開発にはまだほとんど使われていないという結果となった。その他の言語としては、Visual Basic、PL/1、FORTHといった回答が複数見られた。
プログラミング言語 | 回答率 | |
---|---|---|
単数回答 | 複数回答 | |
アセンブリ言語 | 22.1% | 45.0% |
C言語 | 69.0% | 76.4% |
C++言語 | 6.3% | 7.3% |
Java言語 | 0.2% | 0.4% |
その他 | 2.4% | 2.6% |
全体的な傾向としては、OSを用いていないものが約28%、ITRON仕様OSが約31%(内、市販のITRON仕様OSが約19%、自社用のITRON仕様OSが約12%)、自社用独自仕様OSが約17%、その他の市販OSが約26%となっている。OSを用いていないものを除くと、ITRON仕様OSの比率は約43%となる。また市販のOSの中では、ITRON仕様OSが約44%を占める。OSを用いていないものの中で、問題があって用いていないとしたケースは約8分の1(全体の3.5%)であった。
その他の市販OSの中では、Microsoft社製のOS(MS-DOS、Windows 3.1/95/98/NT/CE)およびそれと互換のOSが約9%を占めているのと、WindRivers Systems社製のOS(VxWorksなど)が約4%あるのが目立つ他は、いずれも2%以下となっており、リアルタイムOSのマーケットが細分化している様子がわかる。なお、調査結果で1%未満の比率であったOSについては、その他の市販OSに括って集計した。
前回調査との比較では、ITRON仕様OSの比率がやや増加している。前々回から前回でも、ITRON仕様OSの比率はやや増加していたことから、ITRON仕様OSの比率は増加傾向にあると考えられる。ITRON仕様OSの中では、市販のITRON仕様OSの比率が増加しているのに対して、自社用のITRON仕様OSの比率は逆に微減となっている。
なお、今回のアンケート調査では、アンケート作成上のミスにより、自社用のITRON仕様OSとBTRON仕様OSが同じ選択肢となってしまったが、BTRON仕様OSを組込み機器に利用している事例は少数であると思われるため、全体の傾向には影響がないと考えた(新しいバージョンのBTRON仕様OSは、内核にITRON仕様OSを利用しており、ITRON仕様OSに分類しても差し支えない)。
また、前回までの調査では「用いたOS」と表記していたのを、今回の調査では「組み込んだOS」という表記にあらためた。これは、「用いたOS」という表記では、開発用のホストマシンのOSと混同するおそれがあると考えたためである。Microsoft社製のOSが前回調査と比べて微減となったのは、この変更が影響した可能性がある。
組み込んだOS | 割合 |
---|---|
市販のITRON仕様OS | 18.8% |
自社用ITRON仕様OS,BTRON仕様OS | 12.0% |
Windows 3.1/95/98 | 4.3% |
Wind River System社製OS | 4.2% |
MS-DOSまたはDOS互換OS | 3.6% |
Integrated Systems社製OS | 2.0% |
Microware Systems社製OS | 1.6% |
Accelated Technology社製OS | 1.2% |
Windows CE | 1.1% |
CTRON仕様OS | 1.0% |
UNIX系OS | 1.0% |
Microtec/Mentor社製OS | 0.6% |
OSEK/VDX仕様OS | 0.3% |
その他の市販OS | 3.2% |
自社製独自OS | 17.4% |
問題があるので使っていない | 3.5% |
必要がないので使っていない | 24.3% |
アプリケーション分野別に組込みOSの比率を見る。表/グラフ7は、回答のあったすべての組込み機器をアプリケーション分野毎に分け、その中でのOSの使用比率を示すものである。表/グラフ8は、OSを用いていないとした機器を除いて、同様の使用比率を示す(このグラフの有効回答数は682である)。これらグラフでは、「その他」以外はITRON仕様OSの比率が高い分野ほど左に配置した。棒グラフの上の数値は、それぞれのアプリケーション分野のサンプル数である。
サンプル数が少ないアプリケーション分野もあるが、一般的な傾向としては、コンシューマ向けの機器(個人用情報機器、通信機器(端末)、AV機器、娯楽/教育機器、家電機器)においてITRON仕様OSの比率が30%を越えている。OSを使わなかった機器を除くと、これらの分野ではITRON仕様OSの比率が50%を越えており、コンシューマ向け機器の分野においてITRON仕様OSが広く使われていることがわかる。通信機器(ネットワーク設備)分野も、全体での比率が40%を越えている。ただし、この分野ではOSを用いていない機器が少なく、OSを用いているものの中の比率はやや小さくなる。
前回調査との比較では、上に挙げたITRON仕様OSの得意分野でITRON仕様OSの比率が伸びているのに対して、その他の分野(特に、設備機器、パソコン周辺機器/OA機器、工業制御/FA機器の各分野)ではITRON仕様OSの比率が下がっている傾向にある。例外は運輸機器分野で、前回調査に比べてITRON仕様OSの比率が4倍近くに増加している。これが、ITRONプロジェクトにおいて自動車制御分野における要求を調査する活動を行った成果であるかどうかの確証はないが、この分野においてITRON仕様OSの認知度が高まっていることは確かであろう。
運輸機器分野では、OSを用いていないものの比率が下がっており、最近になってOSの適用が進んだ分野であると言える。この分野に特化した標準仕様であるOSEK/VDX仕様のOSを用いているとした回答は、今回の調査では3件のみと少数に留まったが、国際的には注目を浴びており、今後の変化に注目したい。
アプリケーション分野 | 割合 | 母数 | |||
---|---|---|---|---|---|
ITRON | 市販OS | 自社製 | 用いていない | ||
個人用情報機器 | 60.0% | 22.9% | 8.6% | 8.6% | 35 |
通信機器 (端末) | 44.9% | 16.9% | 15.7% | 22.5% | 89 |
通信機器 (ネットワーク設備) | 43.8% | 40.0% | 8.8% | 7.5% | 80 |
家電機器 | 40.0% | 10.0% | 26.7% | 23.3% | 30 |
娯楽/教育機器 | 36.7% | 20.0% | 13.3% | 30.0% | 30 |
AV機器 | 35.7% | 14.3% | 16.7% | 33.3% | 84 |
設備機器 | 26.5% | 41.2% | 8.8% | 23.5% | 34 |
運輸機器 | 25.3% | 13.7% | 17.9% | 43.2% | 95 |
工業制御/FA機器 | 23.5% | 36.6% | 17.5% | 22.4% | 183 |
パソコン周辺機器/OA機器 | 22.2% | 22.2% | 25.4% | 30.2% | 63 |
医用機器/福祉機器 | 22.0% | 16.0% | 22.0% | 40.0% | 50 |
その他の業務用機器 | 20.3% | 14.5% | 24.6% | 40.6% | 69 |
その他の計測機器 | 18.8% | 29.7% | 18.8% | 32.8% | 64 |
その他 | 38.5% | 15.4% | 15.4% | 30.8% | 39 |
アプリケーション分野 | 割合 | 母数 | ||
---|---|---|---|---|
ITRON | 市販OS | 自社製 | ||
個人用情報機器 | 65.6% | 25.0% | 9.4% | 32 |
通信機器 (端末) | 58.0% | 21.7% | 20.3% | 69 |
AV機器 | 53.6% | 21.4% | 25.0% | 56 |
娯楽/教育機器 | 52.4% | 28.6% | 19.0% | 21 |
家電機器 | 52.2% | 13.0% | 34.8% | 23 |
通信機器 (ネットワーク設備) | 47.3% | 43.2% | 9.5% | 74 |
運輸機器 | 44.4% | 24.1% | 31.5% | 54 |
医用機器/福祉機器 | 36.7% | 26.7% | 36.7% | 30 |
設備機器 | 34.6% | 53.8% | 11.5% | 26 |
その他の業務用機器 | 34.1% | 24.4% | 41.5% | 41 |
パソコン周辺機器/OA機器 | 31.8% | 31.8% | 36.4% | 44 |
工業制御/FA機器 | 30.3% | 47.2% | 22.5% | 142 |
その他の計測機器 | 27.9% | 44.2% | 27.9% | 43 |
その他 | 55.6% | 22.2% | 22.2% | 27 |
使用プロセッサ別の組込みOSには、次のような傾向がみられる。まず、4ビットでOSを使った例はない。8ビットになると、約30%がOSを使っており、そのほとんどが自社用独自仕様OSである。16ビットでは30%強がOS未使用、20%強が自社用独自仕様OSで、あわせて半数を越えている。ITRON仕様OSの比率は約30%で、その他の市販OSの比率はその半分の15%以下に留まっている。32ビットでは、約10%がOS未使用、10%強が自社用独自仕様OSで、あわせても4分の1に満たない。ITRON仕様OS、その他の市販OSの比率はいずれも約40%である。
前回調査との比較では、8ビット、16ビットでは、OSを使用する比率が下がっており、ITRON仕様OSの比率も下がっている。それに対して32ビットでは、OSの使用率はほぼ同じで、ITRON仕様OSの比率は増加している。つまり、ITRON仕様OSの適用が、徐々に大きいシステムに移行する傾向となっている。
プロセッサ | 割合 | 母数 | |||
---|---|---|---|---|---|
ITRON | 市販OS | 自社製 | 用いていない | ||
4ビット | - | - | - | 100.0% | 8 |
8ビット | 4.5% | 3.8% | 21.1% | 70.7% | 133 |
16ビット | 29.7% | 14.1% | 24.2% | 32.1% | 327 |
32ビット | 41.1% | 36.1% | 12.7% | 10.0% | 440 |
64ビット | 21.4% | 78.6% | - | - | 14 |
DSPなどの専用プロセッサ | 17.4% | 26.1% | 4.4% | 52.2% | 23 |
最後にプログラムサイズ別の組込みOSは、次のようになっている。まずプログラムサイズ64KB未満では、60%強がOS未使用で、約20%が自社用独自仕様OS、約10%がITRON仕様OSと、8ビットプロセッサの場合と似た傾向を示している。プログラムサイズが大きくなるにつれて、OS未使用の比率は下がる傾向にある。
ITRON仕様OSの使用比率は、プログラムサイズが大きくなるにつれて多くなり、1MB以上4MB未満で約45%と最大になる。それ以上のプログラムサイズでは、ITRON仕様OSの比率は小さい。このことから、ITRON仕様OSが中規模以下のシステムに広く使われていることがわかる。
前回調査との比較では、64KB未満ではOSを使用する比率が下がっており、 ITRON仕様OSの比率も下がっている。それより大きいシステムでは、OSの使用率はほぼ同じで、ITRON仕様OSの比率は増加傾向にある。つまり、プログラムサイズ別に見た場合でも、ITRON仕様OSの適用が、徐々に大きいシステムに移行する傾向を見ることができる。
プログラムサイズ | 割合 | 母数 | |||
---|---|---|---|---|---|
ITRON | 市販OS | 自社製 | 用いていない | ||
64kB未満 | 11.9% | 6.6% | 18.5% | 63.0% | 243 |
64kB以上 256kB未満 | 33.2% | 16.1% | 21.0% | 29.8% | 205 |
256kB以上 1MB未満 | 40.8% | 29.8% | 17.9% | 6.6% | 168 |
1MB以上 4MB未満 | 21.1% | 56.1% | 12.3% | 10.5% | 57 |
4MB以上 16MB未満 | 26.5% | 64.7% | 5.9% | 2.9% | 34 |
16MB以上 | 34.6% | 53.9% | 11.5% | - | 26 |
すべてのアンケート回答者に対して、リアルタイムOSの問題点と選択基準について選択肢を提示し、該当する選択肢を3つまで選べることとした。
リアルタイムOSの問題点として最も多く選ばれたのは、「使いこなせる技術者が不足またはいない」で、全体の約54%が問題点と指摘しており、約33%の回答者が最大の問題点であるとしている。
それに次いで、単数回答では「価格が高い」と「開発環境やツールが不足」が約15%となっている。さらに「OSにより仕様の違いが大きく切り替えの負担が大きい」「OSのサイズや使用リソースが大きすぎる」「性能・機能が要求条件に適合しない」が7〜9%台で続いている。複数回答で見た場合も、「開発環境やツールが不足」(約42%)「価格が高い」(約36%)が他の項目より抜き出ている。開発環境やツールの問題は、最大の問題ではないが、それに次ぐ問題ととらえられていると考えることができる。
前回調査との比較では、全体的な傾向には変化がないが、単数回答で「価格が高い」がやや増加、「開発環境やツールが不足」がやや現象して、前回結果と逆の順序となった。また、「使いこなせる技術者が不足またはいない」が増えており、他の項目のほとんどはやや減少している。
問題点 | 割合 | |
---|---|---|
単数回答 | 複数回答 | |
技術者が不足、またはいない | 32.5% | 54.2% |
価格が高い | 15.9% | 36.3% |
開発環境やツールが不足 | 14.4% | 41.9% |
OSにより仕様の違いが大きく、切り替えの負担が大きい | 9.2% | 21.6% |
OSのサイズや使用するリソースが大きすぎる | 8.4% | 24.5% |
性能や機能が要求を満たさない | 7.2% | 19.7% |
ソフトウェア部品が不足 | 4.1% | 17.8% |
ベンダサポートが不充分 | 0.8% | 10.5% |
その他 | 3.8% | 7.3% |
問題なし | 3.8% | 4.8% |
「開発環境やツールを不足」を挙げた回答者に対して、具体的にどのようなツールが不足しているかを具体的に記述してもらう項目に対しては、多くの回答者がデバッグ環境関連(デバッガやICE)を挙げている。特に、タスクを認識できるデバッガを挙げている回答者が目立つ。また、統合開発環境やCASEツール、検証のためのツールを挙げている回答者も多い。
単数回答では、「性能・機能が要求条件に適合するから」が最も多いが、「自社内で使用実績があるから」「世の中で多く使われているから」という実績重視の選択基準がそれに続き、両者をあわせると約33%と、「性能・機能が要求条件に適合するから」を越えている。さらに、「信頼性が高いから」「価格が安いから」が10%強で続いている。「ソフトウェア部品が充実しているから」を選んだ回答者はわずか1.5%で、ソフトウェア部品の充実はリアルタイムOSの選択基準としては重視されていないことがわかる。
複数回答でみると、「価格が安いから」が単数回答と比べて高い比率となっている。リアルタイムOSの価格は、最も重要な基準とは言えないが、2番目ないしは3番目の選択基準として重視されていることがわかる。
前回調査との比較では、単数回答での順位に大きな変動はないが、「性能・機能が要求条件に適合するから」を選んだ比率がかなり下がり、「世の中で多く使われているから」「信頼性が高いから」「価格が安いから」などの比率が増えている。実績重視の選択基準の中では、「世の中で多く使われているから」が増加したのに対して、「自社内で使用実績があるから」はやや減少しており、デファクト標準重視の傾向がうかがえる。特に複数回答で見た場合に「価格が安いから」の比率の延びが顕著で、不況が影響していることも考えられる。
選択基準 | 割合 | |
---|---|---|
単数選択 | 複数選択 | |
性能や機能が要求に適応する | 22.6% | 39.0% |
自社内の実績 | 16.9% | 28.5% |
世の中で多く使われている | 15.9% | 26.3% |
信頼性が高い | 11.6% | 26.6% |
価格が安い | 10.6% | 31.9% |
OSサイズや使用リソース | 6.5% | 20.1% |
開発環境やツール | 4.8% | 25.8% |
対応チップの多さ | 3.3% | 13.0% |
ベンダサポートの良さ | 2.0% | 7.9% |
ソフトウェア部品の多さ | 1.5% | 8.1% |
その他 | 4.2% | 5.7% |
アンケート回答者のITRON仕様OSとの関わりを問う項目では、「ITRON仕様OSを使用/開発したことがある」「ITRON仕様OSを調査/検討したことがある」をあわせて70%を越える一方、「全然存在を知らなかった」とした回答者はわずかに0.3%と、ITRON仕様OSの周知度が十分に高いことが確認できた。
前回調査との比較では、「ITRON仕様OSを使用/開発したことがある」「ITRON仕様OSを調査/検討したことがある」ともやや増加する傾向にあり、「話しに聞いたことがある」はやや減少している。「話しに聞いたことがある」とした回答者に、ITRON仕様について調査/検討させるような広報活動の継続が必要と考えられる。
関わり | 割合 |
---|---|
ITRON仕様OSを使用/開発したことがある | 43.5% |
ITRON仕様OSを使用/開発したことはないが、調査/検討したことはある | 29.4% |
話を聞いたことはあるが、調査/検討したことはない | 26.8% |
全然存在を知らなかった | 0.3% |
μITRON3.0仕様の周知度が、前回調査と比べて20%近く増加し、約3分の2が知っていると回答している。これは、「ITRON仕様OSを使用/開発したことがある」または「ITRON仕様OSを調査/検討したことがある」と回答した比率とほぼ一致しており、単なる「ITRON仕様」ではなく、バージョン番号まで含めた認識が進んでいることがわかる。μITRON3.0互換性チェックシート以外は、今回の調査での新たな項目であるが、まだ公表していないμITRON4.0仕様の周知度が約4分の1あることは、ITRONプロジェクトに関する広報活動が一定の成果を収めていることを示していると考えられる。
仕様の内容 | 回答率 |
---|---|
μITRON 3.0 仕様 | 66.3% |
ITRON TCP/IP API仕様 | 28.2% |
μITRON 4.0 仕様 | 25.9% |
JTRON 1.0 仕様 | 22.2% |
JTRON 2.0 仕様 | 19.0% |
μITRON 3.0 互換性チェックシート | 15.0% |
どれも知らない | 25.6% |
ITRON関連の各委員会・研究会の周知度とも、前回調査と比べて増加している。特に、ITRON専門委員会の周知度は、3分の2に近づくレベルとなっている。
関連委員会・研究会 | 周知度 |
---|---|
μITRON 専門委員会 | 63.9% |
μITRON 4.0 仕様研究会 | 24.6% |
Embedded TCP/IP 技術委員会 | 21.6% |
RTOS自動車応用技術研究会 | 20.2% |
Java Technology on ITRON specification OS 技術委員会 | 16.6% |
どれも知らない | 28.6% |
前回調査と比べて、「ITRONホームページ」の周知度が伸びている一方で、「展示会でのブース出展や講演」と「ITRONニュースレター」の周知度は減少している。
広報活動 | 周知度 |
---|---|
展示会でのブース出展や講演 | 64.9% |
ITRON ホームページ | 50.0% |
ITRONオープンセミナー ITRON仕様セミナー | 37.7% |
ITRONニュースレター | 17.9% |
どれも知らない | 14.7% |
ITRONに関連するその他の活動の周知度については、いずれもそれほど高くない。ITRON仕様準拠製品登録制度については、前回調査と比べて周知度が増加している。
活動内容 | 周知度 |
---|---|
ITRON仕様準拠製品登録制度 | 26.0% |
TRONWARE | 25.2% |
TRONプロジェクト国際シンポジウム | 24.0% |
TRONSHOW | 18.1% |
ITRON Club メーリングリスト | 12.4% |
どれも知らない | 46.0% |
2.4節の(1)の設問で、ITRON仕様OSを使用/開発したことがある」または「ITRON仕様OSを調査/検討したことがある」とした回答者に対して、ITRON仕様OSの長所と短所を尋ねた。選択肢を提示し、該当する選択肢を3つまで選べることとした。
ITRON仕様OSの長所としては、「仕様の理解が容易」を挙げた回答者の比率が単数回答において約30%、複数回答において約47%と極めて多く、技術者の教育を重視するというITRON仕様の設計方針が成功していることを示している。それに次いで、「OSのサイズおよび使用リソースが小さい」「多種類のチップに対応している」「価格が安い」が上位を占めている。単数回答と複数回答の傾向はほぼ一致している。その他の自由記述には、仕様がオープンであることを挙げる回答が多かった。
前回調査との比較では、「仕様の理解が容易」が増加、「多種類のチップに対応している」「価格が安い」がやや増加しているのに対して、「OSのサイズおよび使用リソースが小さい」は減少している。これは、プロセッサの高性能化やメモリの大容量化により、サイズや使用リソースが問題となる場面が減っているためと思われる。
長所たる特徴 | 割合 | |
---|---|---|
単数回答 | 複数回答 | |
仕様の理解が容易 | 30.0% | 42.7% |
OSのサイズおよび使用リソースが小さい | 17.9% | 31.0% |
多くのチップに対応している | 17.4% | 31.2% |
価格が安い | 15.5% | 21.8% |
性能が高い | 4.0% | 10.6% |
扱える技術者が多い | 2.8% | 9.3% |
機能が豊富 | 2.8% | 7.3% |
よい開発環境やツールがある | 1.3% | 4.7% |
ソフトウェア部品が充実している | 1.1% | 1.9% |
サポートがよい | 0.4% | 0.7% |
その他 | 4.7% | 6.9% |
目立った長所はない | 2.1% | 3.2% |
ITRON仕様OSの短所としては、「開発環境やツールが不足」を挙げた回答者が、単数回答で約23%、複数回答で約36%と最も多いが、前回・前々回調査と比べると徐々に減少する傾向にあり、ITRON仕様OSの開発環境やツールの整備が進んでいることがわかる。
それに次いで、「目立った短所はない」とした回答者が多く、単数回答で約17%となっている。さらに、「実装依存部分が大きくソフトウェアの移植性が悪い」「ソフトウェア部品が少ない」「扱える技術者が少ない」の順で続いている。複数回答では、「ソフトウェア部品が少ない」が相対的に多くなっている。その他の自由記述としては、海外での認知度の低さの指摘が複数あった。
前回調査との比較では、「開発環境やツールが不足」「扱える技術者が少ない」が減少している一方で、「実装依存部分が大きくソフトウェアの移植性が悪い」「ソフトウェア部品が少ない」が増加している。現在ITRONプロジェクトで進めている標準化活動は、「開発環境やツールを不足」および増加している2つの点を改善することを目指しており、活動方針の妥当性を確認できた。
問題点 | 割合 | |
---|---|---|
単数選択 | 複数選択 | |
開発環境やツールが不足 | 22.9% | 32.4% |
実装依存が多く移植性が悪い | 12.9% | 18.2% |
ソフトウェア部品が少ない | 11.5% | 20.9% |
扱える技術者が少ない | 7.8% | 13.2% |
機能が不足 | 4.4% | 7.8% |
OSのサイズおよび使用リソースが大きい | 4.4% | 6.2% |
価格が高い | 3.9% | 6.3% |
サポートが悪い | 2.8% | 6.6% |
対応しているチップが少ない | 2.8% | 4.4% |
仕様の理解が難しい | 2.8% | 4.1% |
性能が低い | 1.7% | 2.8% |
その他 | 4.8% | 6.5% |
目立った短所はない | 17.2% | 0.9% |
すべてのアンケート回答者に対して、ITRONプロジェクトが今後の取り組むべき課題の選択肢を提示し、該当する選択肢を3つまで選べることとした。
単数回答と複数回答での順位は完全に一致しており、「ソフトウェア部品のインタフェースの標準化」「開発環境とのインタフェースの標準」「フリーのITRON仕様OS」「ネットワークサポート」「C++/Java言語バインディングの標準化」の順で多い。
前回調査との比較では、「ソフトウェア部品のインタフェースの標準化」の比率が増える一方で「開発環境とのインタフェースの標準」の比率が減少し、この2つの順位が逆転した。このことは、ITRON仕様OSの短所として「開発環境やツールが不足」が(多いながらも)減少していることと整合している。「C++/Java言語バインディングの標準化」の比率が減少し、順位を2つ下げているが、これには今回から「Java実行環境のサポート」という選択肢を設けたことが影響している可能性がある。その他はやや減少する傾向にある。
内容 | 割合 | |
---|---|---|
単数回答 | 複数回答 | |
ソフトウェア部品のインターフェースの標準化 | 25.3% | 46.6% |
開発環境とインターフェースの標準化 | 22.1% | 44.8% |
フリーのITRON仕様OS | 10.9% | 25.8% |
ネットワークサポート | 9.5% | 25.8% |
C++/Java言語バインディングの標準化 | 8.6% | 20.2% |
アプリケーション設計ガイドラインの作成 | 4.1% | 15.9% |
ハードリアルタイムサポート | 4.0% | 13.5% |
教育セミナーの実施 | 3.4% | 11.2% |
Java実行環境のサポート | 3.1% | 10.3% |
応用分野を絞った標準化 | 3.1% | 8.1% |
マルチプロセッササポート | 2.5% | 6.2% |
フォールトトレランスサポート | 0.5% | 4.4% |
その他 | 1.4% | 2.5% |
どれも期待しない | 1.5% | 1.5% |
今回の調査は、過去2回に実施した内容を踏襲し、一部に改良を加える形で実施した。収集できた回答数は前回の5割増しとなり、統計的な確度が高まったと考えられる。全般的には、前回の結果とそれほど大きい変化は見られないが、前々回から通してデータを見ると一定の傾向が読みとれるものもある。特に、ITRON仕様OSが組込み機器に使用される比率には増加する傾向が見られ、今回の調査では40%を越えている(OSを使用していない機器を除いた比率)。この比率は、他を大きく引き離して国内においては業界標準仕様の地位を確かなものにしている。
全般的には、ITRONプロジェクトにとって喜ぶべき結果となっているが、ITRON仕様OSの短所については、前回調査と同様に、開発環境やツールの不足を挙げた回答者が多かった。また、移植性の悪さやソフトウェア部品の不足を挙げた回答者も増加している。ITRONプロジェクトで現在取り組んでいる課題が、ITRON仕様OSの短所を補う意味で正しい方向性であることは確認できたが、より一層の努力が求められているともいえる。
今回の調査では、リアルタイムOSの問題点や選択基準などの調査結果に、開発環境よりもコストを重視するという傾向が見られ、技術的な要因が相対的に小さくなっている。これには、リアルタイムOSの技術が成熟してきたという理由に加えて、不況の影響も考えられる。
(社)トロン協会では、この結果をITRONプロジェクトの今後の活動方針に活かすとともに、来年度以降も同様の調査を継続して行っていきたいと考えている。